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基礎用語から医療関連用語まで日常の看護場面で出会う事例を通して解説!
97年11月臨時増刊号
定価:1,300円 (税込)
第1章
心理的メカニズムに関する用語

●心のしくみ
 その1 その2 その3
●心の発達心理
 その1 その2 その3
●妊娠と出産をめぐる心理
 その1 その2 その3
●アイデンティティ

 その1 その2 
●ナルシシズム

 その1 その2
●対象喪失と障害受容

 その1 その2 その3
●老人の心理

 その1 その2

第2章
心理療法的アプローチに関する用語

●治療関係

 その1 その2 その3
 その4 その5 その6
●治療構造

 その1 その2 その3
●治療的介入
 その1 その2 その3
●関係の終結
 その1 その2 その3
 その4
●心理教育
 その1 その2
●ストレスとコーピング
 その1 その2 その3

第3章
家族・集団心理に関する用語

●家族の心理
 その1 その2 その3
 その4  
心理学用語
vol.01 vol.02 vol.03
 
Case study
 Aさんは23歳の男性です。脊髄損傷のため、リハビリテーション科に入院しました。受傷前は良好な社会適応を遂げていた人でしたが、病棟での彼は典型的な問題患者でした。 拒薬や拒食など、自分勝手な言動ばかりが目立ち、体位変換や自己導尿の時間を守らないために褥瘡が悪化し、膀胱炎を繰り返していました。 また、自分の治療態度は棚に上げて、ことあるごとに看護スタッフや主治医を激しく批判し、リハビリテーション訓練に参加しないこともしばしばでした。
 病棟スタッフは、彼が受傷によってさまざまな対象喪失(※「対象喪失と障害受容」参照)を体験し、そのために退行したり、情緒的に混乱しているということを理解はしていましたが、しだいに彼の言動に巻き込まれていきました。 そして、スタッフの中からも主治医批判がわきあがるなど、治療チームは混乱していきました。
 この病棟では、1週間に1回の頻度で、第三者的な立場の精神科医を加えたリエゾン・カンファレンスを設定していました。カンファレンスでは、Aさんの言動によって看護スタッフが混乱し、 彼とのかかわりに疲れきっていること、それもあって主治医に批判が集中していることが理解されました。また、そのような治療チーム全体の混乱が、さらにAさんを退行させている側面があるようでした。 そのような理解から、Aさんのこれ以上の退行を防止するためには、治療構造を整理する必要があると考えられました。
 カンファレンスで情報交換をするうちに、患者さんは主治医以外の病棟医から自分の不安を軽減できるような情報ばかりを集めていること、またその一方で、現実的な病状を説明し治療方針を提案する主治医への批判を強めていることがわかりました。 そこでまず、主治医以外の医師が本人の病状についてコメントすることを控えることにしました。
 同時に、通常のベッドサイドでのやりとりに加え、週に2回、主治医による個室での面接を設定しました。その面接をとおして、Aさんは生殖機能が障害されているかどうかについて強い不安を抱いていることがわかりました。 個室での面接という構造を得たことによって、主治医はAさんの不安の原因を理解できるようになり、必要な検査の計画について話し合うことができるようになりました。
 しかし、その後も患者さんは主治医からの病状説明をかなり歪曲したり誇張したりしてスタッフに伝え、「あの医者にこんなひどいことを言われた」と訴えるために、主治医は相変わらずチームから孤立させられていました。 この問題は、定期的なミニカンファレンスを設定し、その中で主治医が、患者さんとの面接内容を直接チームスタッフに伝達することで解消しました。
 スタッフ内の混乱が収まってくると同時に、患者さんも少しずつ落ち着きを取り戻し始めました。この時期には、訓練への参加や体位変換、自己導尿など、患者さんが自力で行うべき手技について、患者さん自身の責任をあらためて患者さんとスタッフとの間で共有したり、 看護スタッフと患者さんが共同で、あらためて一日の行動予定表を作成することができるようになり、Aさんの病棟生活はさらに構造化されたものとなりました。Aさんは「障害者としてばかり見られたくないから頑張る」と話すようになり、訓練にも意欲を示すようになりました。

 Aさんは、骨髄損傷というハンディキャップを抱え、心理的な退行を示していました。そして、治療チームとの相互作用の中で、さらに混乱していたようでした。この時期のリエゾン・カンファレンスの課題は、Aさんの退行を防止すること、 そのために治療環境を構造的に整備することでした。構造化された治療環境が、患者さんとスタッフを支え、患者さんの「喪の仕事」(※「対象喪失と障害受容」参照)を進展させることに貢献したといえます。


 ここでは、治療構造、構造化といった用語をとり上げました。わざわざこのような用語を用いなくても、日常の臨床の中で、私たちは多かれ少なかれ、常に治療構造論的な視点をもって仕事をしているといってもよいかもしれません。 とはいえ、私たちが患者さんとの関係にすっかり巻き込まれ、自分と患者さんとの関係を冷静に把握できなくなっているときには、こうした視点に立ち戻ることが、しばしば有用です。
 患者さんとの関係が、どうしてもうまくいかないと感じるときには、看護者と患者さんとの関係に、さまざまな形で影響を与えている周囲の状況、たとえば上司、同僚、研修医、指導医、 病院管理者といった人たちとの関係、あるいは病棟の雰囲気や運営上のシステムなどといった要因にも目を向けてみると、意外に事態が把握しやすくなり、解決の糸口が見いだせることがあると思います。こうした見方も、治療構造論の重要な一側面であるといえます。
 
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