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» 患者理解のための心理学用語
基礎用語から医療関連用語まで日常の看護場面で出会う事例を通して解説!
97年11月臨時増刊号
定価:1,300円 (税込)
第1章
心理的メカニズムに関する用語
●心のしくみ
その1
その2
その3
●心の発達心理
その1
その2
その3
●妊娠と出産をめぐる心理
その1
その2
その3
●アイデンティティ
その1
その2
●ナルシシズム
その1
その2
●対象喪失と障害受容
その1
その2
その3
●老人の心理
その1
その2
第2章
心理療法的アプローチに関する用語
●治療関係
その1
その2
その3
その4
その5
その6
●治療構造
その1
その2
その3
●治療的介入
その1
その2
その3
●関係の終結
その1
その2
その3
その4
●心理教育
その1
その2
●ストレスとコーピング
その1
その2
その3
第3章
家族・集団心理に関する用語
●家族の心理
その1
その2
その3
その4
vol.01
vol.02
vol.03
vol.04
vol.05
vol.06
前回まで、対人関係論的見地に基づき、治療契約、ラポール、治療同盟・作業同盟、転移、逆転移について触れました。それらの心理学用語をベースに、 ここでは「抵抗」「行動化」「共感」について具体例を交えながら解説します。
抵抗【resistance】
定義
精神分析の考え方であり、無意識のなかに抑圧されていたことを意識化しようとすると、自我を防衛するために、意識化しようとする努力に対抗して起きてくるさまざまな現象。
「抵抗」というとどんなことを思い浮かべるでしょう。思春期の子どもたちの大人への反抗であるとか、また、私たちの職業柄、病気への抵抗力ということも考えられるかもしれません。しかし、ここで説明する「抵抗」とは、「病気への抵抗」とは正反対の「治療、または、治癒への抵抗」ということなのです。しかし、本当にそんなことがあるのかという疑問を感じられると思います。なぜなら、患者さんは、病気を治すために医療機関を訪れているわけですから、「治療または治ることへの抵抗」というのは患者さんにとって、明らかに矛盾することだからです。
ここで誤解のないように言っておきますが、「治ること、または治療への抵抗」というのは、患者さんにとっては、意識されていることではなく、あくまで無意識のメカニズムによる結果なのです。ですから、意識的に治療に協力しないということとは異なります。この、意識、無意識については、次項に説明します。それでは、この「抵抗」という現象について順を追って説明していきます。
看護者と患者さんという関係は、看護する側と看護される側という、ある面で不均等な関係にあります。そして、その関係は当然、医師と患者さんの、治療する側とされる側という関係にもあてはまります。 このような関係は、日常生活の中でも多くみられます。ここで、前節の「転移」の説明を思い出していただきたいのですが、このような関係には常に「転移」という現象がついてまわります。そして、「転移」が無意識の中で、その関係に対して形成されると、その次に、「抵抗」が出現してきます。
この「抵抗」という考え方は、本来は精神分析治療の経過中に生じる現象ですが、ほかの精神療法の中でもみられます。それは、患者さんが心の問題を解決するために自らの希望で治療を受けているにもかかわらず、その目的の達成をはばむようなさまざまな方法で、治療のプロセスに対抗する現象です。そして、この方法は、態度や言葉や行動など本当にさまざまです。ですから、「抵抗」が起きているかどうかは、たとえば、思ったような治療効果が得られてないときや、入院治療がスムーズにいかないときに、これは「抵抗」が起きているのではないかと考えてみて、初めてわかることもあります。
さらに「転移」も「抵抗」も、入院している場合や、状況が危機的な場合に起きやすいと考えていいでしょう。経験の長い看護者であればよくわかると思いますが、入院という状況は患者さんに子ども返りの現象を引き起こしやすく、このことを「退行」と言いますが、このような現象は、さらに「転移」と「抵抗」を起こしやすくします。
それでは次にこの「抵抗」を、具体的に患者さんの事例で説明してみましょう。
Aさんは40代の男性で、胸痛を訴え狭心症の診断で入院しました。およそ2カ月の薬物治療を受け、検査でも異常は認められなくなりました。そのため、主治医はAさんにそろそろ退院の準備をするようにと説明しました。ところが、この時期から、ナースに対しては「薬の効果がないのではないか。ときどき胸が痛むように感じる」と繰り返し訴えます。しかし、男性医師の前に出ると何も訴えませんでした。その後、夜間のナースコールが頻繁になりました。そのため、主治医が再検査を行いましたが異常はなく、退院してもいい状態であると説明しました。しかし、Aさんはナースに対して胸の不快感があることを繰り返し訴えました。困り果てた主治医は、精神科にコンサルテーションの依頼を出しました。
ここで、Aさんの家族構成を説明します。Aさんは3人兄弟の三男で、父親はAさんが15歳の時に心筋梗塞で死亡しています。現在は妻と子ども2人の4人家族です。
その後、精神科の男性医師がAさんと面接をしましたが、内科の医師に対する態度と同じようにあまり多くを話そうとはしませんでした。しかし、ナースに対してはAさんは気楽に話をすることから、ナースのベッドサイドでの会話の時間を多少長くすることを提案しました。 そして、ナースとのベッドサイドでの会話から実に多くのことがわかりました。父親が亡くなる少し前からAさんと父親の関係が悪く、たびたび衝突し、さまざまなことで反抗もしていたこと。2人の兄はAさんが父親の寿命を縮めたんだと話していたこと。そして、母親にそのことを言ったらそんなことはないと言ってくれたが、自分が原因ではないかと感じていること、などを涙ながらに次々に話しました。そして、そういうAさんにナースが繰り返し「共感する」ことで、Aさんの胸痛は消失し、退院していきました。
以上がAさんの事例です。それでは、まずAさんの精神的な葛藤がなんだったのかということを簡単に説明します。Aさんは、自分の反抗的な態度が父親を死に追いやったのではないかと思い悩んでいた。そして、自分も父親と同じ年代になり、同じ症状をもってしまい、自分も同じ病気で死ぬのではないかと感じ、不安が強くなったと考えられます。この父親の死をめぐる葛藤がこの時点でAさんが意識し言葉にできた葛藤です。
それでは、この経過の中で「抵抗」はどれだと思いますか。治療の進展を阻んだものは、一つは、身体的には治癒したにもかかわらず、Aさんが自分で「胸痛」という症状をつくり出してしまっていたことです、これが、「治療すること」への抵抗です。さらに、もう一つの「抵抗」は、男性医師に「父親転移」を形成し、反抗していた父親に対するような感情をもちながらも、それが意識できないため、過度に従順な態度になり、自分の意思を伝えられず、「治療への抵抗」となっていたことです。このような「転移」が「抵抗」になる場合を「転移抵抗」とも言います。しかし、Aさんはこの部分は意識できないままでした。
それでは、次に「抵抗」の中でもよく見られる「行動化」を説明します。
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