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» 患者理解のための心理学用語
基礎用語から医療関連用語まで日常の看護場面で出会う事例を通して解説!
97年11月臨時増刊号
定価:1,300円 (税込)
第1章
心理的メカニズムに関する用語
●心のしくみ
その1
その2
その3
●心の発達心理
その1
その2
その3
●妊娠と出産をめぐる心理
その1
その2
その3
●アイデンティティ
その1
その2
●ナルシシズム
その1
その2
●対象喪失と障害受容
その1
その2
その3
●老人の心理
その1
その2
第2章
心理療法的アプローチに関する用語
●治療関係
その1
その2
その3
その4
その5
その6
●治療構造
その1
その2
その3
●治療的介入
その1
その2
その3
●関係の終結
その1
その2
その3
その4
●心理教育
その1
その2
●ストレスとコーピング
その1
その2
その3
第3章
家族・集団心理に関する用語
●家族の心理
その1
その2
その3
その4
vol.01
vol.02
vol.03
障害の受容【acceptance of disability】
定義
自分の受けた障害を、知的にも、情緒的にも理解し、残された能力を活性化することによって、障害に適切に対処し障害を受け入れながら自己の人生の質を高めること。
Sさんは60歳の男性です。仕事中に高さ1.5mの高さから誤って転落し受傷。第4頸椎完全損傷で四股麻痺および躯幹の麻痺に加え、呼吸筋の麻痺が出現し、直ちに挿管され入院となりました。
入院後、誤嚥性肺炎などで意識障害もたびたび出現し、全身管理を必要とする状態が約9カ月間続きました。
その後、不眠や、知覚のないはずの部分の痛みを訴えることが多くなりました。さらに気管切開しているために意思の疎通が図りにくく焦燥感が強いこと、精神面の支持の必要性などから精神科に依頼されました。
受傷後約1年経過したころに主治医から「今後、人工呼吸器から離脱できる可能性はほとんどない」ことが伝えられました。その3カ月後にはまばたき操作によるワープロの練習を開始しましたが「いずれ使わなくてもすむようになるかもしれないから」と途中でやめてしまいました。
2年が過ぎようとしていたころ、Sさんはナースに「受傷した後、医療スタッフの1人から3年経ったらよくなるかもしれないと言われた。自分は今でも、その言葉を信じている」と語り、心のどこかでいつかは治るという希望を強く抱いているのではないかと推測されました。
その後も、不眠、説明のつかない痛みをナースに訴え、ナースが医師を呼ぼうとすると、それを制止していました。
2年8カ月が経過したころ、再び「腕が動いたり、歩いたりできるようにはならない。今後は、現在の体の状態で、可能な目標を立てていくことが大切です」と2回目の告知が行われました。
その後、ベッドに寝たままの状態でSさんの院内散歩が行われ、その後2〜3カ月は訴えが減少しました。
ところが、3年目を迎えた8月に入ると自分の体について具体的にナースに質問することが多くなりました。
ついに「今後の体のことについて主治医から直接話を聞きたい」という本人の希望に応じて主治医は「脊髄は一度損傷を受けると回復不能である。したがって一生今の状態が続く。将来手を動かすことも歩くことも自力で呼吸することもできない」ことを伝えました。
Sさんは涙を流しながらその言葉を聞いていました。精神科の併診医にも、「これも運命、運命」と涙ながらにくり返し、さらに次のように語りました。「前々からなんとなくはわかっていたが、今回の話で治る見込みがないということがはっきりとわかった。自分は今年で60歳になる。 元気で働いたとしても今年で定年を迎える。これも一つの区切りということだ。ただ、この体では家族に迷惑をかけるばかりで何もしてやれないのが気がかりだ」
この症例に対する、告知の時期や方法などに対してはさまざまな意見があると思われますが、ここではSさんの障害の受容の過程を考えてみましょう。まず、ショック期に約1年、その後の第2段階「否認や現実逃避」に約2年、3年目になってやっと「承認」の段階に入ってきて、これから適応の段階を経験することになります。 受容に長期間を要したケースといえるでしょう。場合によって年単位の対応が必要になることもあるのです。
身体的な治療の多岐化、専門化が進み、これらへの確実な対応を求められる看護スタッフにとって、対象喪失に対する心理的な過程に配慮することは、現在の日本の一般科の臨床の現状では非常に難しいと思います。
しかし、患者さんの中には、障害の受容についての少しの心理的理解をもって対応することで、ずいぶん変化がみられることがありますので、ぜひ心がけてみてください。
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