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» 患者理解のための心理学用語
基礎用語から医療関連用語まで日常の看護場面で出会う事例を通して解説!
97年11月臨時増刊号
定価:1,300円 (税込)
第1章
心理的メカニズムに関する用語
●心のしくみ
その1
その2
その3
●心の発達心理
その1
その2
その3
●妊娠と出産をめぐる心理
その1
その2
その3
●アイデンティティ
その1
その2
●ナルシシズム
その1
その2
●対象喪失と障害受容
その1
その2
その3
●老人の心理
その1
その2
第2章
心理療法的アプローチに関する用語
●治療関係
その1
その2
その3
その4
その5
その6
●治療構造
その1
その2
その3
●治療的介入
その1
その2
その3
●関係の終結
その1
その2
その3
その4
●心理教育
その1
その2
●ストレスとコーピング
その1
その2
その3
第3章
家族・集団心理に関する用語
●家族の心理
その1
その2
その3
その4
vol.01
vol.02
ナルシシズムを背景とした現象は、臨床場面はもちろん、私たちの日常生活のあちこちに見られます。現代社会に生きる人々を理解するための一つのキーワードであるともいわれていますし、疾病をもった人の心理を考えるうえでも重要なテーマです。ここではナルシシズムを背景とする、生活場面や臨床場面での問題をいくつかとり上げてみたいと思います。
自己愛パーソナリティ【narcissistic personality】
定義
誇大性、称賛されたいという欲求、共感の欠如など、自己愛的傾向の強い性格傾向をいう。
自己愛パーソナリティの特徴は以下のようなものです。
自分に対する誇大的な感覚。自分の能力を過大評価し、うぬぼれが強い。
自分の成功、権力、才気、美しさなどの空想に没頭している。
自分が特別であり、ユニークな存在であるため、特別な才能をもつ人、一流の人にしか理解してもらえないと信じている。
常に過剰な称賛を求める。しかし一方で、自尊心は傷つきやすい。
特権意識が強く、周囲が自分に特別な計らいをするのは当然であると感じている。自分への献身や、自尊心を高揚させてくれる人とだけかかわりをもとうとする。
他人の欲求、体験、感情を理解することが困難であり、他人にも都合や感情があることに気づくことができない。
ここで、Aさんの自己愛的傾向について振り返ってみます。Aさんは、自分が有能であることを実感するために研究に打ち込んできた人です。また彼が妻に求めたのは、 主に自分の自尊心を充足させてくれることでした。そして、妻も自分と同じ気持ちであると思い込んでおり、妻には妻の気持ちや人生があるということが理解できなかったわけです。 こうした自己愛的傾向の強い人が、自分のナルシシズムを満足させられなくなったことを契機として、急速にうつ状態に陥ることは、精神科臨床においてはしばしば見られます。
次に、セルフ・エスティームについて説明します。セルフ・エスティームは、その人の自己愛のあり方を反映しています。また。精神科以外の診療科でナルシシズムが問題になる例についてもとり上げてみたいと思います。
セルフ・エスティーム【self-esteem】
定義
自我による自己の価値評価。
セルフ・エスティームは、自己評価、自尊心、自己価値などと訳されています。セルフ・エスティームは、次のような両極の間に位置されます。 一方の極は自信、全能感、優越感といった感情であり、もう一方の極は自分に対する過小評価、つまり劣等感や自信喪失などの感情です。 自己愛の問題をよく反映するのは、セルフ・エスティームが前者のように著しく、肥大していたり、対照的に極端な傷つきやすさを示す場合、 あるいはその両極の間を動揺して安定しない場合です。
さて、 人間のライフサイクルにおいて、一般に老年期には自己愛が高まるといわれています。セルフ・エスティームは過剰に肥大し、自分が常に正しいと考えるようになったりします。 周囲の考えに聞く耳をもたなくなり、自分勝手になって、周囲の人のほうが自分に合わせるのが当然であるといわんばかりの態度をとる老人もときに見かけます。
病者の心理についても同じことがいわれてきました。病者は多かれ少なかれ、自己愛的な傾向が強まります。ギリシャ神話のナルキッソスほどではないとはいえ、 病気になったことで、自分自身や自分の身体にばかり注意を向けるようになるのは、だれにとっても避けられないことでしょう。
フロイトは「病人のエゴイズム」について、「病気になれば、われわれもまた、同じように振る舞うことを確信している」と述べているほどです。
自己愛的な傾向が強まった結果、周囲の努力や心配を顧みないような、尊大で自分本位な言動が目立つようになる患者さんは、やはり壮年期から老年期の患者さんに多いようです。 こうした年代の患者さんの中には、Aさんのように、長年の努力によって社会的地位を築いてきた人や、仕事のうえで重要な役割を果たしてきた人も多いことでしょう。
病気そのものによる不安に加え、対象喪失(次項「対象喪失と障害受容」参照)をめぐる不安、つまりこれまで築いてきた立場や役割を失うのではないかといった不安や、 「若いやつらにメンツを潰されるのではないか」といった、ナルシシズムを傷つけられる不安を打ち消そうとすることで、患者さんは一層自己愛的になるのかもしれません。
こうした患者さんとかかわるときに、「こちらは専門家、そちらは素人」といった態度で接していると、なかなか良好な治療関係が築けないことがあります。 「患者さん」である前に、まずは「人生の先輩」として、患者さんの立場を尊重する態度が大切であろうと思います。
ここではナルシシズムについてとり上げました。どちらかというと、不健康な感じのナルシシズムばかりを説明したいように思いますが、冒頭でも触れたように、 ナルシシズムは多かれ少なかれだれにでもある心理です。そればかりか、たとえば意欲や目的意識をもって物事に取り組めること、自分に対する安心感や他者への基本的な信頼感、 アイデンティティといわれる自己感覚、自信を喪失するような体験から回復できる能力など、私たちの精神生活を支える重要な役割を果たしていることを理解しておくべきでしょう。
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