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| 愛着理論【attachment theory】 |
| 定義 |
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人間の子どもには母親との近接状態を維持させたり、必要に応じて接近させるような生得的な行動システムが備わっている。これを愛着システムと呼び、このシステムが活性化されると子どもは母親に向けて愛着行動を起こす。この愛着行動とは母親との近接状態の維持や回復を結果としてもたらすすべての行動をいう。これには、子どもが近接状態を積極的に維持しようとする行動と、母親の養育行動や保護を引き出すのに有効な行動が含まれる。そして、このような愛着行動は人間が進化の中で獲得したものである。 |
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第二次世界大戦後、世界的に孤児が増加し、孤児院や病院、施設などで養育されている乳幼児も著しく増加していました。これらの乳幼児の死亡率や疾病罹患率は、普通の家庭で養育されている乳幼児に比べ高率であることが知られていました。そのため、WHO(世界保健機関)は、家庭のない子どもの精神衛生に関する調査を英国の精神分析医ボウルビィに依頼しました。
その調査の結果、ボウルビィは、「乳幼児と母親の関係が親密かつ継続的で、しかも両者が満足と幸福感に満たされるような状態が、乳幼児の性格発達や精神衛生の基礎である」との結論に達しました。そして施設児にはこのような母子関係が存在しないことが、多くの問題の原因だと報告し、「母性剥奪(maternal deprivation)」の概念を提唱しました。これ以後、発達研究の分野において「母性剥奪」の研究が盛んに行われるようになりました。ボウルビィの愛着研究もこの研究の延長上にあるものです。
愛着理論について詳しく説明する前に、まず、伝統的な精神分析理論の考え方について説明しましょう。
このボウルビィの「愛着」という概念が提唱されるまでは、子どもが母親を特別の対象として追い求める現象は、「依存」という言葉で説明されていました。フロイトは、最初に子どもの愛情の対象になるのは母親の乳房であり、それが後に母親という人間全体に向けられるようになると考えました。そして、母親を特別な存在として後追いしたりするのは、乳児の生理的な欲求を母親が満足させてくれて、しかも乳児を性的に刺激する存在だからであると考えました。つまり、母親に対する「依存」は二次的な行動だと考えたわけです。
フロイトの娘であるアンナ・フロイトは、その点をもっと明確に主張しています。子どもの最初の愛は、要求充足や生理的な快をもたらす授乳そのものに向けれられています。それが、認識が発達するにつれて、子どもはその快をもたらすものが授乳そのものではないことを理解し、関心はミルク、乳房へと移っていきます。さらに、授乳をとおして緊張を取り去ってくれるものがなんであるかを知るようになると、やっと母親や養育者に愛を感じるようになり、特別な存在として「依存」するようになると考えたのです。
このような考え方は現在でもアメリカを中心にした自我心理学派(アメリカの精神分析の主流学派)の伝統的な考え方です。
このように、伝統的な精神分析では、母親への「依存」は成長に伴い獲得されるものとしています。それに対し、ボウルビィの理論では「愛着」を遺伝的に規定されたものとしているのです。

それでは、そのボウルビィの愛着理論をその背景を含めて説明してみましょう。
ボウルビィの理論は、人間の乳児は、人との接近や接触を求める能力をもって生まれるよう生物学的に規定されているという前提で理論化されています。乳児の母親への接近・接触要求行動は、進化の過程の行動パターンのなごりであり、それを人間の乳児は誕生のときから示すと考えました。その行動パターンには、把握反射や抱きつき反射などの原始的反射といわれるものから、泣くことやほほ笑み、乳児独特の意味のない言葉ー喃語なども含んでいます。このような行動パターンは大人を乳児のそばにとどまらせ、乳児の生命の保護を確実なものにする機能をもっていると推測しました。さらにボウルビィは、このような乳児の行動に呼応し積極的に乳児を保護しようとする大人の行動も本能的な特性であろうと考えました。
このようなボウルビィの考え方は、動物の行動を観察し人間の行動と比較研究する比較行動学に大きな影響を受けています。ボウルビィと同時代の有名な比較行動学の研究には、ローレンツのあひるを用いた「刻印づけ」やハーロウのアカゲザルを用いた針金マザーの実験などがあり、動物における愛着行動が報告されています。ちなみにボウルビィは比較行動学者ハインドの研究「動物の行動」にヒントを得て愛着理論を構築したと語っています。

それでは、乳児が母親という特定の大人に対して「愛着」という情緒的なきずなを形成していく過程について簡単に説明してみましょう。
ボウルビィは共同研究者のエインズワースの観察結果から、「愛着」の発達には4つの段階があると仮定しました。
第1段階は誕生から8週ないし12週までの期間で、乳児は人の声や顔に反応を示しやすく、声を聞いたり顔を見たりすると泣きやむことが多いことがわかりました。このような行動は子どもに対する大人の反応性を高め、相互交渉をより多く体験する可能性を高めると考えました。
第2段階は12週ころから6カ月ころまでの時期であり、自分の行動に最もよく反応してくれる人物、通常は母親に対して特に親密な相互交渉が展開されるようになります。特に14週ころから他の大人の顔よりも母親の顔にはっきりとした好みを示し始め、18週ころからは大人に抱かれても母親のほうに視線や身体を定位することが多くなります。このため、母親も乳児に対して注意を向けるようになるわけです。
第3段階は6カ月から2歳ころまでの時期で、母親に対する選択的な好みが強まり、さらに人見知りや分離不安といった現象が起こる時期です。生後6カ月ころの乳児は愛着行動が顕著になり、母親の姿が見えなくなると泣き声をあげ、戻るとほほ笑み、喜びの声をあげるよになります。さらに9カ月ころから自律的に行動できるようになり、母親との距離を測りながら探索行動を始めます。この探索行動では、初めは視界に母親が入る範囲で行動するのですが、しだいに行動範囲を拡大し、母親の姿は見えなくても声の聞こえる範囲で行動するようになります。しかし、母親から一定以上離れることはなく、子どもは常に母親の動きに注意を払い続けています。こうして、子どもは安心感を提供してくれる母親を、接近・接触だけを目的とした対象ではなく、探索行動のための「安全基地(secure base)」として利用できるようになっていきます。
第4段階は生後2年目の終わりころから始まります。このころから愛着行動はかなり弱まり、頻度も減少していきます。そして、4歳のころになると母親と離れて一人で行動できるようになりますが、愛着行動がまったくなくなるわけではなく、緊張場面では母親にしがみついたり抱っこを求めたりします。そして、このころには母親の感情をある程度推測し、それにあわせて自分の行動を調節できるようになると説明しています。
以上がボウルビィの「愛着」を中心にした乳幼児期の発達理論ですが、精神分析医である彼は、この「愛着」の質がその個人のその後の対人関係に大きな影響を与えると考えました。つまり、母親を「安全基地」として利用できるような健全な「愛着」を形成した子どもは、周囲の家族に対しても健全な「愛着」を向け、同時にそれらの人たちから受けるフィードバックにより肯定的な自己像をもち、パーソナリティを発達させることが可能となると考えました。現在もさまざまな研究分野からこの「愛着」の概念について研究されています。

この項では、心の発達としてウィニコットとボウルビィの発達理論を説明しました。精神分析的な発達理論にはこれ以外にいくつもありますが、最近特に取り上げられることの多いこの二人の理論に絞って解説をしてみました。
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