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精神分析における発達理論は、フロイトの精神-性的発達理論を基礎にしてさまざまな理論を生み出しました。母親と乳幼児の観察研究が盛んに行われるようになり、その中で、ほとんどの母親と乳幼児に共通してみられる行動や現象をどのように理解し理論化するかということが、フロイト以後の研究者にとって常に最重要研究課題でした。これらの発達研究はテクノロジーの進歩に伴い、次々に新しい発見がされており、精神分析以外の発達心理学の分野においても同様の進歩がもたらされています。しかし、精神分析的発達理論が他の学問領域と大きく異なるのは、常に治療のための理論として体系化されていることです。この項ではその代表的なものとして、ウィニコットとボウルビィの理論を紹介します。

| 抱っこする環境【holding environment】 |
| 定義 |
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母親に完全に依存している乳児が必要とする発達促進的な環境を、母親がつくりだすことを比喩的に「抱っこ(holding)」という。この環境が確保されることによって、乳幼児は万能感と十分な安心感を体験し、健全な発達が促される。このように共生的な乳児の欲求に応え、自己形成を援助し、乳児が対象を愛する積極的な姿勢を育む環境を提供している母親を「ほどよい母親(good enough mother)」と呼び、「ほどよい母親」により提供された環境を「抱っこする環境」と呼ぶ。 |
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これは、イギリスの児童精神分析家ウィニコットの提唱した理論です。ウィニコットは、英国のケンブリッジ大学を出た後、小児科医として働き、その間、母親と乳幼児のやりとりに関心をもったことから、精神分析の訓練を受けて精神分析医となりました。1950年代から次々に独創的な発達理論を展開し、それを精神分析治療理論として発達させました。ウィニコットはその幅広い研究を通じて、一貫して発達初期の子どもについての探求を深め、一つの理論を組み立てました。
この理論では、まず、生まれたばかりの子どもに対する「母親の原初的没頭」から展開します。つまり、それぞれの母親の置かれている環境は実にさまざまであるにもかかわらず、どの母親も、子どもが生まれると、育て援助することに没頭するということです。このことにより乳児は万能感をもち、さらに母親が乳児の欲求に適切に応えることで、その万能感はさらに強まります。これが乳児期の成長に不可欠であるとしました。
このような環境を提供する母親を「ほどよい母親」と呼び、提供された環境を「抱っこする環境」と呼んだのです。もう一つウィニコットの理論を代表するものとして「移行対象」という考え方があります。これを次に説明しましょう。
| 移行対象【transitional object】 |
| 定義 |
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移行対象とは、慣れ親しんだ毛布やぬいぐるみなど、子どもが宝物のようにしている物で、しばしば母親を思い起こさせるような特徴的な匂いや感触をもった物を指す。たとえば、眠りにつけないような緊張場面や、愛着対象との情緒的分離場面で肌身離さず持っている物などである。 |
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移行対象は、母親がそばにいないときでも、子どもが母親の幻影を保持し、母親に保護されているという安心感を心の中につくり、子どもの気持ちを落ち着かせます。それが、幼児期の自律性の促進に大きな役割を果たし、やがて母親から分離していくための準備につながります。
さらに、ウィニコットは母親と子どもの関係性を「可能性に満ちた空(potential space)と呼び、母親が「ほどよい母親」として機能すれば、幼児はその母親との関係において一つの空間をつくりだし、その心的領域の中で乳児はさまざまに「遊ぶこと(playing)」をとおして成長していくと考えました。ウィニコットは、子どもが自由に「遊ぶこと」に注目し、これを発達的、前進的、創造的過程と結びつけて考えました。
これ以外にもウィニコットは幼児の発達についてさまざまな理論をつくりあげましたが、特に重視されるのは、これらの発達理論を精神疾患の治療理論として体系づけた点にあります。
次回は、母親と乳幼児の「愛着」について膨大な研究を行ったボウルビィの発達理論について説明します。 |
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