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基礎用語から医療関連用語まで日常の看護場面で出会う事例を通して解説!
97年11月臨時増刊号
定価:1,300円 (税込)
第1章
心理的メカニズムに関する用語

●心のしくみ
 その1 その2 その3
●心の発達心理
 その1 その2 その3
●妊娠と出産をめぐる心理
 その1 その2 その3
●アイデンティティ

 その1 その2 
●ナルシシズム

 その1 その2
●対象喪失と障害受容

 その1 その2 その3
●老人の心理

 その1 その2

第2章
心理療法的アプローチに関する用語

●治療関係

 その1 その2 その3
 その4 その5 その6
●治療構造

 その1 その2 その3
●治療的介入
 その1 その2 その3
●関係の終結
 その1 その2 その3
 その4
●心理教育
 その1 その2
●ストレスとコーピング
 その1 その2 その3

第3章
家族・集団心理に関する用語

●家族の心理
 その1 その2 その3
 その4  
心理学用語

 心の発達にはさまざまな仮説があります。ここでは、精神分析的な発達理論を中心に説明してみましょう。精神分析はフロイトの創始した学問ですが、その草創期の治療の方法は、簡単にいうと、催眠により患者さんの幼児期の記憶を蘇らせて外傷的な出来事を思い出させる、というものでした。そして、その無意識の中に抑圧された外傷的な出来事として、幼児期の性的な体験が多く話されたのでした。そこでフロイトは患者さんの性的発達の様相に目を向け、そこから、精神分析における心の発達理論の最初の仮説が作られました。



精神-性的発達【psycho-sexual development】
定義
 フロイトの初期発達理論。性および性愛などの発達は、人に遺伝的にあらかじめ規定されている、とする本能的・生物的な発達論。特に、思春期以前の性的衝動(欲動)の段階的発達を理論化した幼児性欲論をその前提としている。

幼児性欲論【infantile sexuality】
定義
 一般にいわれる成人の性は性器性欲であり、幼児性欲はそれとは異なる性器性欲以前の段階の性欲を指すとフロイトは定義した。そして、幼児性欲には成長段階に応じて3種類あり、おのおのの成長段階を口唇期、肛門期、男根期と表現し、おのおのに応じた口唇的、肛門的、男根的幼児性欲を認める。これらの幼児性欲は内分泌的な第二次性徴の段階で、成人の性器性欲として統合されていく。

 さて、心の発達なのにどうして性の話から始まるのだろうと思われる方も多いと思います。しかも、どうも変な言葉が次々と出てきて、あまり大きな声では言えないような、耳慣れない単語ばかりですが、もう少し我慢して読んでください。ここで注意してほしいのは、私たちが一般的に使っている言葉とやや異なる意味をもつものが多いのです。たとえば、「性欲」という言葉は、日常使われる意味では、大人の性的な欲望のことをいいますが、精神分析学ではある種のエネルギーを表しているような意味になります。さらに、精神分析的な言い方をすると「欲動(drive)」という表現になったりもします。
 それでは、幼児性欲論について説明します。フロイトは、多くの神経症の患者さんの話を聞くうちに、その患者さんの心の抑圧が取れてくると、いろいろな前性器的な性欲に基づく連想が、幼児期の記憶の中に現れてくることに気がつきました。
 そして、このことからフロイトは仮説を立てたわけです。つまり、こういう性器以前の性欲、幼児性欲ですが、これが抑圧されて神経症症状が起きるのではないかと考えました。そして、この理解からさらに進めて、成人の性愛(eros)のかなりの部分が幼児期に決定されていること、そして、性的なものに対する感受性は子どものころにもあることを想定しました。さらに、それが発達的な法則性をもつことを知り、それを口唇期、肛門期、男根期と発達順に名づけました。そして、フロイトは人間の心的機能の様式はこの性愛の基本的様式にその起源をさかのぼることができると考えました。つまり、すでに成人した人の葛藤や性格傾向はこの乳幼児期にその起源をもつということです。それでは、具体的に発達の諸段階の特徴とその性格傾向について説明しましょう。

1、口唇期【oral phase】
 生後1歳半ころまでがこの時期にあたります。授乳期から離乳期にかかる時期であり、赤ちゃんにとっては口が重要な機能をもっている時期です。赤ちゃんは母乳を飲んでいると安らいだ表情をしています。逆に、母乳が出なかったり、お腹がすいていると、大声で泣いて不愉快そうに見えます。この口唇を介した時期に、満足した体験を多くもったか、不満を募らせていたかという違いが、成人になった後も性格傾向に現れます。これを口唇的性格とか口愛的性格といいます。
 これには、簡単にいうと2種類あり、一つは母乳を飲ませてもらうという、依存的な満足を求める傾向。これはたとえば、人に依存したり、人から与えられることを喜び、人を信頼して過度に甘えてしまういう性格傾向です。そして、もう一つは赤ちゃんに乳歯が生えてきてからの時期に相当しますが、なんでも噛みついて食べてしまうというような貪欲な傾向があります。この時期に強い不満を経験していると、たとえば、知識欲が旺盛で貪るように取り入れる、満たされない思いからくやしさをもち続けるなどの性格傾向が表れます。また、やや特殊なものとして、食べられない物を、一度口に含んでから吐き出すことから、外界のものを飲み込まず拒否するということもこの時期にあたります。

2、肛門期【anal phase】
 おおよそ、1歳から3歳ごろまでの時期であり、この時期には主に子どものしつけとしてトイレット・トレーニングが行われる時期にあたります。つまり、オムツが外れるようになり、自分の判断でトイレに行き自分で排泄できるようになる時期です。
 しかし、これは自然に身につくわけではなく、母親の適切な励ましなどがあり、うまくできるようになります。そして、子どもが必要なときにトイレに行き、そうでないときには我慢するという、自分の排泄を自分の意思でコントロールする感覚を身につけます。つまり、自律性の獲得です。そして、この時期に同時に起きてくるのは母親に対する反抗的な気持ちです。それは、トイレに行くのを嫌がったり、グズグズしたりという行動として表れ、態度全般にわたって頑固な面を見せ始めます。
 このころに不満足な体験を繰り返すと、ためることと排泄することに象徴される葛藤に関連した性格傾向につながっていきます。肛門性格、また、精神医学的には強迫的性格といわれる、几帳面、倹約、頑固の3つの特徴をもつ性格です。
 また、フロイトは「便は人間の最初の所有物である」と考えています。そのため精神分析的には「ウンチ」は貴重な所有物、たとえば財産や宝物を象徴している表現と理解します。この辺りからも、倹約家などの言葉が連想されるかと思います。

3、男根期【phallic phase】
 ファルス(pallus)とはペニスを意味するラテン語です。この時期は、およそ2歳から6歳ごろまでの時期ですが、名前のとおり「オチンチン」を主役にした発達段階です。この時期の仮説に対しては、フェミニズム運動などにより男性主体の考え方だと批判され、現在ではやや修正された考え方になってきていますが、それでも精神分析的発達理論の中では非常に重要なエディプス・コンプレックスにつながっていく重要な時期です。それでは、このファーリック・フェーズ(男根期)について説明してみましょう。
 この時期、男の子は自分の性器の存在に気がつき、さかんにいじったり、見せびらかしたりします。そして、女の子は自分にはそれがないことに気づきます。つまり、この段階の子どもは男性器があるかないかでしか評価しないという、未熟な段階です。この段階では、男の子は女の子に比べて自分のほうが勝っていると感じたり、女の子はコンプレックスを感じたりします。このころの男の子の心性を男根的自己愛(ファーリック・ナルシシズム)といいます。そして、このころの未熟な心理傾向では子どもは自分と他人の持ち物の大小や優劣を比較したがったりして、自分のほうが優れているとか劣っているとかとうことを非常に気にします。
 ライヒという精神分析家は、この性格が極端で病的になったものを、男根期自己愛性格と位置づけ、ヒステリーの一つとして説明しています。これは、自己顕示的・自己主張的で競争心が強く優位に立っていないと気が済まない、侵入的で攻撃的である、能力のない人をさげすむなどの性格傾向をもつと定義しています。
 それでは、この時期、女の子はどうでしょうか。これはあくまで、フロイトの時代、20世紀初めのころの理論であり、現在の精神分析理論では女性性の発達に関しては、性同一性理論などの発展によりかなり修正されたものになっています。
 とりあえず基本的な理論で説明してみましょう。男の子が男性器を誇示するときに、女の子は自分にはそれがないということを認めると、自己の欠落を認めることになってしまいます。そこで、それを否認し、自分も男の子と同じようなものをもっているのだという幻想を抱くなど、さまざまな空想をします。さらに、男の子と互角に競える能力を発揮することで、男性器に対するうらやましさを解消しようとし、極端に男性と競いたがる性格を身につける女性もいるとフロイトは考えました。
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