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はじめに、二重拘束がどのように生じるかをみてみましょう。まず、命令に従わないなら罰を与えるという恐れを抱かせるような第1の命令が「○○しろ」といったかたちで出されます。 その後、より抽象的な次元で最初のものと矛盾し、再び罰の恐れを感じさせるような第2の命令が出されます。 第2の命令は、しばしば態度や表情などによって非言語的に与えられます。そして、このような体験が繰り返され、しかもその場から逃げられない状況におかれます。このとき、これらの命令を与えられた人は、どちらの命令も選ぶこともできず、非常に困惑する状況にあるのです。 最も簡単な例として「自立的になれ」と「命令される」状況を想像してみてください。もし命令に従って自立的に振る舞ったとしたら、それは、命令に従っているので自立的とはいえないことになります。 また、自立的でない態度をとっても、それは命令に従わないことになってしまいます。結局、どちらを選んでも罰せられることになってしまうのです。 当初、この概念は、分裂病の発症をコミュニケーション理論から説明する際に用いられた概念でした。しかし、なにも分裂病の家族だけにみられるわけではないことがすぐにわかりました。 そして、このようなコミュニケーションのパターンは、より重度の機能不全の家族で頻繁に生じています。では二重拘束のケースを症例をとおしてみてみましょう。
A子さんは32歳。30歳の妹と両親の4人暮らしでした。娘たちが25歳を過ぎたころから、結婚適齢期になっても一向にそのそぶりがないので、母親は「早く結婚しなさい。私たちの期待を裏切るような子に育てたつもりはないよ」と小言をいうようになってきました。それに対し娘たちは、特に恋人を連れてくるでもなく、親密な関係の人をつくることもしませんでした。 そんな娘に母親は縁談を勧めました。A子さんもそれほど乗り気ではありませんでしたが、渋々会ってみることにしました。ところが、相手方がA子さんを気に入ってしまい、母娘とも本人たちが思った以上に、トントン拍子に話が進んでしまいました。そして、相手から婚約の時期を決めたいという申し入れがありました。 このころには、はじめは乗り気ではなかったA子さんもその気になっていました。それとは反対に、母親は急に元気がなくなり、同時に不安感が強くなり、衰えた様子になってきました。 A子さんはこのような母親の態度をみて「こんなに衰えてしまったお母さんをおいていっていいのだろうか。うちは子どもは二人とも女性だし困った」と感じました。 このような状況で、決断が遅れるうちに、業を煮やした相手の家からの断りの連絡が入りました。A子さんの落胆はかなりのものでしたが、逆に母親は元気になりました。 そして、またしばらくして母親は「私たちの期待を裏切らないでね」と縁談をもってきたのでした。今度も母親は、話が順調に進み出すと具合が悪くなりました。そして、縁談が破談になったのをきっかけにA子さんはうつ状態となって来院したのです。 このように、母親は娘に対して「期待を裏切らないで」という言語的なメッセージと、具合が悪くなって「結婚してほしくない」という非言語的な矛盾したメッセージを出しています。これを受けたA子さんは、どちらも選択できずに困ってしまったわけです。このような状況におかれた人は、コミュニケーションを遮断して引きこもるしかなくなってしまうのです。