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日常業務の中で、患者さんの家族と接する機会は多いと思います。しかし、家族について考えたり、ゆっくりと家族とかかわるといった機会は、意外に少ないのではないでしょうか。そこで、家族と接するうえでの重要な概念について、2項目にわたって説明します。家族と接し、評価するときには、私たちが日常使っている考え方を少し変えてみることも必要です。ここで説明する用語は、少し抽象的で難しいかもしれませんが、家族を評価するうえで必要な概念なので、ぜひ理解していただきたいと思います。

| 直線的因果関係/循環的因果関係【linear causality/circular causality】 |
| 定義 |
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直線的因果関係とは、一つの出来事が他を引き起こすプロセスを表す。循環的因果関係とは、直線的因果関係に対立する概念で、原因がすなわち結果であり、結果がすなわち原因であるというように、相互作用を中心に因果関係をみる考え方である。この立場では、原因と結果は、循環的な連鎖の一部を便宜上抽出しただけであるとみなす。 |
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こんな夫婦をイメージしてみてください。夫は仕事熱心なサラリーマンで、いつも疲れ果てて家に帰ってくる。一方奥さんは、近所の主婦仲間とのつきあいに物足りなさを感じており、そのことを夫に聞いてほしいと思っている。
しかし、夫にそれを話そうとしても聞いてもらえず、ついつい愚痴をいってしまう。そうすると夫の帰る時間はますます遅くなり、しだいに気まずい関係になっていく。
このような関係の中で妻のいらいらの原因はどこにあるのでしょう?夫の帰りが遅いことでしょうか。一方で、夫の帰りが遅くなる原因はどこにあるのでしょうか。妻の愚痴っぽさでしょうか。このようにどちらか一方が原因という考え方は、直線的因果関係からみた考え方といえます。
しかし、どちらか一方が原因とはいいきれません。相互作用を中心として因果関係をとらえることが循環的因果関係からみた考え方なのです。
たとえば日常臨床では、「血圧が急に下がったのはどうして?」「尿量が減ったのはどうして?」など結果から原因を推察するというトレーニングを受けることが多く、こうした考え方に慣れています。このため、つい直線的因果関係に頼りがちになります。
しかし、家族をみるうえでこれを行っていると、家族の中にスケープゴート──つまり悪者をつくってしまい、問題症状がいつまでも解決しないという事態になります。たとえば前述の夫婦の場合、どちらか一方に原因があるととらえても、こじれた夫婦関係の改善には役立たないでしょう。
家族をみていくうえでは、循環的因果関係の見方が必要になるのです。では、症状を通して考えてみましょう。
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中学1年生であるA君は、脳炎のために、小児科に入院。精神症状がひどく精神科に依頼されました。このような状態で母親の混乱はかなり強く、母親にも支持的な対応が必要でした。脳炎の症状は、徐々に改善しましたが、記銘力障害が残ってしまいました。
入院期間は3カ月にも及び、退院後はクラス替えをした進級後の2年のクラスに復学することになりました。しばらくは、クラスの生徒にもいたわってもらえました。ところが、そのうち顎で使われたり、不合理な要求を突きつけられる使い走りの役として、不良グループに入っていじめられ始めたのです。
このころになると記銘障害もかなり改善してきていましたが、私はA君には知的なハンディキャップがあるから、いじめられるのだろうと理解しました。前述したように、これは直線的な因果関係による理解だったのです。しかし、事実はそう単純ではないことが、その後わかったのです。
ある日、A君の母親から「おり入って相談したいことがあるので時間をとってほしい」と、突然電話がありました。
話を聞いてみると母親がいまいちばん困っていることはA君の件ではなく患児の姉つまり娘のB子が、無断外泊をしたり、母親の財布からお金を盗みとったり、法外な金額の買い物をしてローンを組んでしまったりすることだというのです。それを注意すると、ものすごい剣幕で母親に殴りかかるので、どのように対処していいかわからず困惑しきっているということでした。
話はこれにとどまりませんでした。父親は普段は非常に生真面目でやさしいのですが、いったんお酒が入ると豹変し、娘のB子に暴力を振るうのでした。暴力を振るわれたB子は、父親に反抗すれば暴力がエスカレートするため、その代わりとして母親やA君に向かって攻撃的になっていたのです。
A君はそれに対して、過程の中でも受け身的に立ち回り、自分がいじめられ役をやっていれば、B子も父親もそれなりに落ち着くことを経験上知っていました。それで、ずっとその役を引き受けていたのでした。
B子がA君をいじめる態度や、母親がなすすべものかう効果的な方法がとれない事態は、父親の怒りをされに刺激し、暴力はエスカレートするばかりでした。このようにみると、いったいだれが原因なのか、特定できないことがわかります。
このような家庭内のパターンは、A君が脳炎を起こすはるか以前から存在していて、A君は小学校低学年のころから、いつも学校でいじめられていたことも明らかにされました。
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私ははじめ、直線的考え方に基づいていじめられていることの原因は脳炎後遺症である考えていました。しかし、いじめられることの背後には、複雑な家庭内のパターンが影響していることが明らかになり、脳炎の後遺症が原因でいじめられているという考え方は、見直されなければならなくなりました。
では、原因は何かと再び考えたとします。B子がすべての原因でしょうか、それとも父親の乱暴がすべての原因でしょうか。そうではないことは明らかです。4人がそれぞれに、原因であると同時に犠牲者でもあるのです。
この家族は次々に連鎖反応を起こして悪循環に陥っています。もしだれか一人が原因だという考え方をとったならば、ほかの原因は放置されたままなので当然治療は、うまくいかないでしょう。
まず、悪循環のシステムを知り、連鎖反応を変えていくことで治療的変化を起こすことが可能となるのです。 |
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