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基礎用語から医療関連用語まで日常の看護場面で出会う事例を通して解説!
97年11月臨時増刊号
定価:1,300円 (税込)
第1章
心理的メカニズムに関する用語

●心のしくみ
 その1 その2 その3
●心の発達心理
 その1 その2 その3
●妊娠と出産をめぐる心理
 その1 その2 その3
●アイデンティティ

 その1 その2 
●ナルシシズム

 その1 その2
●対象喪失と障害受容

 その1 その2 その3
●老人の心理

 その1 その2

第2章
心理療法的アプローチに関する用語

●治療関係

 その1 その2 その3
 その4 その5 その6
●治療構造

 その1 その2 その3
●治療的介入
 その1 その2 その3
●関係の終結
 その1 その2 その3
 その4
●心理教育
 その1 その2
●ストレスとコーピング
 その1 その2 その3

第3章
家族・集団心理に関する用語

●家族の心理
 その1 その2 その3
 その4  
心理学用語
vol.01 vol.02
 

 精神科以外の診療科でも、さまざまな心理教育的アプローチが実践されています。たとえば膠原病、自己免疫疾患など、治療法が未確立で長期的な治療的フォローが必要となる、いわゆる難病患者さんや、癌、エイズ、認知症、気管支喘息など、すでにさまざまな臨床場面で心理教育的アプローチの有効性が指摘されていますので、いくつかの例を挙げてみます。
 糖尿病の患者さんや家族を対象に実施されている「糖尿病教室」では、疾患についての知識、食事療法やインスリン療法について、あるいは好ましい生活態度など、療養に必要なさまざまな知識を提供し、指導しています。個別の指導だけではなかなか血糖コントロールがうまくいかず、入退院を繰り返してきた患者さんの中には、こうした集団セッションをとおして適切な療養生活を身につけていく人がいます。
 スタッフの指導にはなかなか従おうとしない患者さんが、他の患者さんからの助言には素直に耳を貸し、自分の療養態度を見直すこともあります。また、「人のふりみて我がふり直す」といった機会になることも多いようです。何より、同じ立場の人が集まるグループだけに共感性が高く、講師の講話よりも、むしろプログラムの前後の時間に交わされる参加者同士のコミュニケーションが有効に機能することも少なくないようです。
 また、HIV感染者やエイズ患者、あるいはその家族を含めたメンタル・ケア(エイズ・カウンセリング)は、近年わが国でも医療・保健の領域で大きな課題となっています。たとえば、検査の匿名性、待合室の空間作り、検査から告知までの期間の短縮といった被検者への心理的配慮が必要です。また、検査によりHIV感染が明らかになった人に対しては、そのショックを受けとめ、心理的サポートを提供することが重要であることはいうまでもありませんが、この際、HIV感染がすなわちエイズの発症を意味するものではないことや、二次感染を予防するために必要な知識や生活上の制限、逆に制限する必要のない事柄など、正確なデータや情報の提供を含めたカウンセリングが不可欠です。
 このほか、癌患者さんに対するアプローチとして、近年注目されているサイコ・オンコロジーという領域があります。自分の免疫細胞が癌細胞を攻撃し、健康を回復していく場面をイメージする、入院治療に「笑い」を取り入れるなど、さまざまなアプローチがありますが、いずれも患者さんの心理的健康度を高めたり、疾患と闘おうとする意思をサポートすることが、病気の予後によい影響を与えるという実証研究の結果がバックボーンとなっています。
 昔から「病は気から」といわれているように、心理的ストレスがさまざまな疾患の発症や経過に影響を与えていることは、一般に広く知られていました。近年の医学は、これまで独立して機能していると考えられてきた神経系、内分泌系、免疫系といった身体防御系が、実は相互に密接に関連していること、心理的ストレスが免疫系に与える影響や、逆に心理的サポートが免疫系を強化することをも明らかにしつつあるわけです。

 
 心理教育的アプローチは、疾患を対象にしたものだけではありません。たとえば薬物療法のコンプライアンスを高めるための工夫としても、こうした方法論が有効な場合があります。 一般に、1日4回投与で処方を受けている患者さんのうち、医師の指示どおりに服薬できている人は、精神科でも他の診療科でも有意差はなく、全体の2割程度といわれています。
 私たち医療従事者にとって、内容も説明せずに、処方さえしていれば飲んでもらえると考えるのは、もはや楽観的すぎるということでしょう。これだけ薬害についての報道が相次いでいる昨今、説明なしに投与された色とりどりの薬を前にして、患者さんが心配になるのは至極当然のことといえます。服薬のコンプライアンスを高めるためには、薬の商品名と化学名、作用と副作用、副作用の出現頻度とその危険性などについて、正しい知識と正確な情報の提供が必要でしょう。
 このほか、たとえば勤務の都合上、昼食後の薬はどうしても飲み忘れてしまうことが多いという患者さんも少なくありません。患者さんが1日3回・4回服薬することを漫然と期待するのではなく、個々の患者さんの生活リズムに合わせた処方や投与回数の工夫も必要でしょう。
 精神科の臨床では、服薬に対して極度に不安が強い患者さんも少なくありません。こうした場合には、初回は待合室で服薬してもらい、何事もないことを患者さん自身が確認してから帰宅してもらうこともあります。そこまでしなくとも、「今日は夕方まで病院にいますから、服薬して何か心配なことがあったら、いつでも電話してくださって結構です」と伝えることも有効です。こうした配慮があれば、ほとんどの患者さんが服薬できるようですし、広い意味では心理教育的なアプローチといえるでしょう。

 この節では心理教育をとり上げました。医療実践に教育的要素が含まれることは、これまでにも十分に認識されてきたことです。心理教育が今後さらに展開していくためには、療養に必要な情報を家族や患者さん自身に積極的に提供すること、何でも医療者側から施すという考え方ではなく、患者さんがもっている能力を積極的に評価すること、あるいは治療に対する患者さん自身の役割や責任性に期待することなど、私たちが「患者さん」のとらえ方を変えることが必要です。在宅ケアを中心とする脱病院化の流れの中で、家族や本人に対する心理教育的アプローチは、今後ますます重要な治療的アプローチの一つとして位置づけられていくものと考えられます。 
 
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