
精神科以外の診療科でも、さまざまな心理教育的アプローチが実践されています。たとえば膠原病、自己免疫疾患など、治療法が未確立で長期的な治療的フォローが必要となる、いわゆる難病患者さんや、癌、エイズ、認知症、気管支喘息など、すでにさまざまな臨床場面で心理教育的アプローチの有効性が指摘されていますので、いくつかの例を挙げてみます。
糖尿病の患者さんや家族を対象に実施されている「糖尿病教室」では、疾患についての知識、食事療法やインスリン療法について、あるいは好ましい生活態度など、療養に必要なさまざまな知識を提供し、指導しています。個別の指導だけではなかなか血糖コントロールがうまくいかず、入退院を繰り返してきた患者さんの中には、こうした集団セッションをとおして適切な療養生活を身につけていく人がいます。
スタッフの指導にはなかなか従おうとしない患者さんが、他の患者さんからの助言には素直に耳を貸し、自分の療養態度を見直すこともあります。また、「人のふりみて我がふり直す」といった機会になることも多いようです。何より、同じ立場の人が集まるグループだけに共感性が高く、講師の講話よりも、むしろプログラムの前後の時間に交わされる参加者同士のコミュニケーションが有効に機能することも少なくないようです。
また、HIV感染者やエイズ患者、あるいはその家族を含めたメンタル・ケア(エイズ・カウンセリング)は、近年わが国でも医療・保健の領域で大きな課題となっています。たとえば、検査の匿名性、待合室の空間作り、検査から告知までの期間の短縮といった被検者への心理的配慮が必要です。また、検査によりHIV感染が明らかになった人に対しては、そのショックを受けとめ、心理的サポートを提供することが重要であることはいうまでもありませんが、この際、HIV感染がすなわちエイズの発症を意味するものではないことや、二次感染を予防するために必要な知識や生活上の制限、逆に制限する必要のない事柄など、正確なデータや情報の提供を含めたカウンセリングが不可欠です。
このほか、癌患者さんに対するアプローチとして、近年注目されているサイコ・オンコロジーという領域があります。自分の免疫細胞が癌細胞を攻撃し、健康を回復していく場面をイメージする、入院治療に「笑い」を取り入れるなど、さまざまなアプローチがありますが、いずれも患者さんの心理的健康度を高めたり、疾患と闘おうとする意思をサポートすることが、病気の予後によい影響を与えるという実証研究の結果がバックボーンとなっています。
昔から「病は気から」といわれているように、心理的ストレスがさまざまな疾患の発症や経過に影響を与えていることは、一般に広く知られていました。近年の医学は、これまで独立して機能していると考えられてきた神経系、内分泌系、免疫系といった身体防御系が、実は相互に密接に関連していること、心理的ストレスが免疫系に与える影響や、逆に心理的サポートが免疫系を強化することをも明らかにしつつあるわけです。
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