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基礎用語から医療関連用語まで日常の看護場面で出会う事例を通して解説!
97年11月臨時増刊号
定価:1,300円 (税込)
第1章
心理的メカニズムに関する用語

●心のしくみ
 その1 その2 その3
●心の発達心理
 その1 その2 その3
●妊娠と出産をめぐる心理
 その1 その2 その3
●アイデンティティ

 その1 その2 
●ナルシシズム

 その1 その2
●対象喪失と障害受容

 その1 その2 その3
●老人の心理

 その1 その2

第2章
心理療法的アプローチに関する用語

●治療関係

 その1 その2 その3
 その4 その5 その6
●治療構造

 その1 その2 その3
●治療的介入
 その1 その2 その3
●関係の終結
 その1 その2 その3
 その4
●心理教育
 その1 その2
●ストレスとコーピング
 その1 その2 その3

第3章
家族・集団心理に関する用語

●家族の心理
 その1 その2 その3
 その4  
心理学用語
vol.01 vol.02
 
 患者さんやその家族への教育や指導的なかかわりは、これまでも、私たちの重要な仕事の一つでした。また近年、教育・指導の効果を高めるために、心理的な理解に基づいたアプローチが不可欠であると考えられるようになってきています。こうした状況を背景に心理教育というアプローチが生まれました。心理教育は、医療・看護・保健など、さまざまな分野での実践をとおして、その有効性が確認されつつあり、日々の臨床にも確実に定着しつつあります。今回は、精神科医療における心理教育や、精神科以外の診療科における心理教育的アプローチ、さらに医療全般にかかわる心理教育の課題として、薬物指導についても触れてみたいと思います。

心理教育【psychoeducation】
定義
 心理療法的な配慮を加えた教育的援助の総称。疾患の性質や治療法・対処方法など、療養に必要な正しい知識や情報を提供することを目的とする。

 精神科における心理教育的アプローチは、これまで主に分裂病者の家族に対して実践されてきました。単家族または複数の家族を対象に、統合失調症の病因、症状、治療方法、経過、予後、神経生理学的知見などのほか、抗精神病薬の薬理作用、薬物療法の効果と副作用、さらにはリハビリテーションのシステムや社会復帰施設、社会保障制度などの社会資源についてなど、幅広い情報と知識が伝達されます。
 こうした取り組みの必要性は、統合失調症の特徴でもある「再発のしやすさ」と関連があります。これまで、統合失調症の再発には服薬の中断とライフイベント(患者さんにとってストレスになるような生活上の出来事)が指摘されていました。さらに1970年代以降、統合失調症の患者さんが、ストレスに対する特有の弱さ(ストレス脆弱性)をもっていることがわかってきました。そして、第3の再発要因として、家族関係の中にも患者さんにとってストレスになるような種類のコミュニケーションがあり、そのことが再発に結びついてしまう場合があるということが明らかになりました。
 こうした理解は、分裂病の患者さんの家族研究から明らかになったことです。以下、その概要と心理教育的アプローチの意義について説明します。
 家族からは患者さんに向けて、日常的にさまざまな情緒や感情が表現されます。こうした感情表出(Expressed Emotion,EE)についての研究が、いわゆるEE研究です。そして、家族の側から患者さんに向けられる感情や情緒(EE)、あるいは患者さんと家族のコミュニケーションのうち、ある種のものは分裂病の再発と深い関連があることがわかってきました。分裂病の再発と関連の深いEEは次の三つです。
 一つは「批判」、二つめは「敵意」、そして三つめが「情緒的巻き込まれ」です。一つ一つについて細かく説明はしませんが、EEの高い家族(高EE家族)、つまりこの三つの感情表出やコミュニケーションが多くみられる家族と生活する患者さんは再発しやすいことがわかりました。
 高EE家族の特長は、小言が多く、批判がましかったり、「お前さえいなければ……」など、患者さんの存在自体を全面的に批判してしまったりする、あるいは精神症状による患者さんの言動に過敏に反応しすぎてしまったり、一緒になってオロオロしたりしやすい家族をいいます。家族の言動が患者さんにとって大きなストレスとなり、再発を来しやすいというわけです。逆にいえば、小言が少ない、注意の仕方が簡潔でうまい、くどくどいわない、のんびりと構えてくれる、患者さんの言動に過敏に反応したり、一緒になってオロオロしない家族(低EE家族)との生活は、患者さんにとってストレスの低いものであり、家族がこうした点に配慮できれば、再発要因が一つ減ることになる、つまり再発防止に役立つというわけです。
 統合失調症の再発を防止するために、家族のEEをできるだけ低くしたい、そのためには病気についての正しい知識をもってほしいというのが、 統合失調症ケースに対する心理教育の目的です。こうした家族への心理教育には、きめ細かい心理療法的配慮が施されています。 たとえば、多くの家族が「子どもを病気にしたのは、自分たちの育て方が悪かったからだ」と考え、自責的になっています。 こうした罪悪感により、家族がストレスを抱え込み、かえってEEが高まってしまったり、患者さんが自分ですべきことまで、 家族が肩代わりしてしまう結果、かえって患者さんの自立を妨げてしまうこともあります。心理教育では、こうした家族の罪悪感を和らげるために、 病因についての知見を正確に提供します。
 たとえば、一卵性双生児を対象とした調査からわかった遺伝研究についての知見を紹介し、分裂病の発症には遺伝がかかわっているが、それがすべてではないということを明確に伝えます。また、さまざまな研究によっても、生育環境と発症との関連を証明するデータは得られていないことを伝えることも、家族が過剰な罪悪感から解放されることを目的をとしています。
 このほか、家族のEEを高めてしまう要因として、家族の経済的不安や、家族が孤立しソーシャルサポートを失っていることなど、さまざまな要因が明らかになっており、これらの課題に対して、社会保障制度の充実や家族の自助グループを活用すること、またそれらの情報が家族に適切に提供されることなどの必要性が指摘されています。また近年は、統合失調症以外にも、躁うつ病、摂食障害、てんかん、パニック・ディスオーダー、不登校や引きこもりケースなど、さまざまな疾患や病理現象を対象に、 心理教育の手法が幅広く活用され始めています。
 さらに、心理教育の対象者も家族から本人へと展開しつつあります。精神障害者には疾患や薬物療法の詳細について理解することは困難なのではないかとお考えになる方もあろうかと思いますが、これは全く根拠のない誤解です。正しい知識に基づき、服薬や精神的コンディション、生活態度、再発のサインとなるような初期症状などに、自分自身で気をつかいながら生活を維持している分裂病患者さんは、皆さんが予想するよりはるかに多いと思います。
 現在、精神科医療は病床数の削減と患者さんの地域生活を支援する方向に向かっています。そのうえで、統合失調症の患者さん本人に対する心理教育的アプローチは、今後ますます重要になってくるものと思われます。
 
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